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免疫のはなし

ワクチンで抗体を作るってどういうこと?

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注射
「ワクチンで抗体を作って病気を予防する」という言葉を私たちは頻繁に耳にします。
では「ワクチンで抗体を作る」とは具体的にどういうことなのでしょう?
そもそも「抗体」とは何なのでしょうか?
この記事では、

をご紹介し、賛否両論ある

について考えたいと思います。

抗体ってどんなもの?

はてな
ここでは、免疫系で重要な役割を担う抗体について

を詳しく見ていこうと思います。

抗体の三つの働き

抗体には主に以下の三つの働きがあります。

  1. 病原細菌に目印を付ける
  2. 細菌毒素を無効化する
  3. ウイルスを細胞に入り込ませない

1.病原細菌に目印を付ける

反応
抗体の働きその1は、病原細菌に目印を付けることです。
体内に入って病気を引き起こす病原体は、病原細菌とウイルスに大別できます。
そのうち、病原細菌は主に体内で増殖することで、様々な病気を引き起こします。
免疫系では、この病原細菌が増える前に、免疫細胞が病原細菌を殺してしまいます。
このような働きをする免疫細胞を、特に貪食細胞といいます。
抗体は体内に侵入した病原細菌に目印をつけることで、貪食細胞が病原細菌を発見しやすくします
これにより貪食細胞は、迅速に病原菌を倒すことができるのです。

2.細菌毒素を無効化する

妨害
抗体の働きその2は、細菌毒素を無効化することです
細菌毒素とは、病気の原因となる病原細菌が持つ毒素のことで、これを持つ病原細菌は、それ自体が増殖しなくても、病気になってしまいます。
このような病原細菌は、貪食細胞には対処できません。
しかし、抗体は細菌毒素の働きを抑ることができ、発病を食い止める働きがあるのです。

3.ウイルスを細胞に入り込ませない

鍵
抗体の働きその3は、ウイルスを細胞に入り込ませないということです。
ウイルスは病原細菌とは異なり、ウイルスだけで増殖することはできず、体内にいるだけでは死んでしまいます。
その代わりに、ウイルスは正常な細胞に侵入し、その中で増殖することができます。
抗体はウイルスにくっつくことで、ウイルスが細胞に入れないようにする働きがあります。

このように抗体は、病原体が私たちの体に悪さをできないように様々な働きをしています。
ではこの抗体は誰によって作られているのでしょうか

抗体は誰が作るの?(抗体産生)

工場
病原体を増やさないうえで、重要な役割を果たす抗体を作っているは、免疫細胞の一種「B細胞」です。
抗体を作ることを抗体産生ともいうので、B細胞は「抗体産生細胞」とも呼ばれます。
病原体が体外から侵入してくると、先に書いた貪食細胞が、病原体を殺そうと働きます。
同時に、貪食細胞が戦っている病原体の情報が体内の免疫細胞間で共有されます。
この情報を受けたB細胞は、病原体にマッチした抗体を作り、免疫細胞が有利に戦えるように援護します。
しかし、この抗体産生には数日から数週間という時間がかかるという欠点があります。
一方で、一度抗体がつくられると、その情報は一生免疫細胞に記憶され、次に同種の病原体が侵入してきても即座に対応することができます。
これを獲得免疫といい、この性質を利用しているのがワクチンです。

抗体の性質

本
ここでは、抗体の性質について、さらに詳しく説明しておこうと思います。
「抗体はだれが作るの?」の項では、B細胞は病原体にマッチした抗体作る、とお話ししました。
しかし、この説明は実際とは少し異なります。
B細胞は病原体などに反応する「抗原レセプター」というセンサーを持っています。このセンサーは1種類の病原体しか検知することができません。
例えば、はしかの抗原レセプターを持つB細胞は、インフルエンザには反応することができません。
この性質を「抗原特異性」といいます。
「無数に存在する病原体の一つ一つに対応する抗原レセプターを作れるのか?」
と疑問に思った方は、「免疫細胞の4つの働きを紹介します」の「抗原レセプターの作り方」の項を参考にしてください。

ワクチンと抗体

注射
これまでに書いてきた抗体の性質を利用したものが、ワクチンです。
具体的に見ていきましょう。

ワクチンとは?

辞書
そもそもワクチンとはどのようなものなのでしょうか?

ワクチン
とは「免疫反応の抗原となる微生物やその産物を含むものであり,感染症の予防を目的として注射や経口投与により生体に能動免疫をつくりださせる製剤」で、接種により「生体(ヒト,家畜など)の体内に能動的につくられる抗体(体液性免疫,細胞性免疫,または両者)が病原体の感染・伝播・流行を阻止する」
ことを目的としています。
(公益社団法人日本薬学会 薬学用語解説より一部抜粋)

つまり「ワクチンとは、接種によって体内に免疫つくる医薬品で、接種により作り出された抗体によって病気の流行を予防することを目的にしている。」ということです。

ワクチンの仕組み

ワクチンは、人工的に増殖させた病原体を無毒化、あるいは弱毒化させたものです。
ワクチンを体内に取り込むと、免疫系が反応しワクチンの病原体を排除するとともに、病原体の情報を記憶し、すぐに抗体を作れる状態で、将来の侵入に備えます
準備万端の体内に、もし病原体が侵入したとしても、その情報を記憶しているB細胞がすぐに、抗体を生成し病原体を攻撃することができます。
これにより、病原体が増殖し、発病もしくは重症化する前に、病原体を倒してしまうことができるのです。
これがワクチンの仕組みです。

予防接種について

予防接種
ワクチンを体内に取り込むことを予防接種といいます。
ここでは、ワクチン接種の必要性と接種に伴うリスクについて考えたいと思います。

予防接種の必要性

予防接種の必要性については、WHOや厚生労働省など多くの機関が、必要性を提唱しています。
理由としては、

・感染力の強い疾病の流行を抑えられる。
・発病や重症化を防止できる。
・合併症を予防できる。

などが挙げられています。
ワクチン接種が求められる疾病は、感染力の強いものや重症化すると死亡したり、何らかの後遺症が残る可能性のあるものばかりです。
このような感染症に罹った場合、確かに自然に治るのを待ったほうが、より強い抗体を得られることもあります。
しかし、抗体ができるまでの間、周りに感染を広げたり、重症化する可能性も高くなるのです。
自分だけでなく周りの人への感染を避け、感染症の流行を避けるために、予防接種は必要です。

予防接種によるリスク

熟考
予防接種によるリスクには副作用(副反応)が挙げられます。
ごく少数ですが、予防接種により重大な副作用が起こることがあります。
厚生労働省が発表している、ワクチン別の接種者数と副反応の件数を比較したところ、
接種した人の内、0.0016%~0.02%の人に副作用が出ていることがわかりました。
ワクチン接種には副反応が必ず伴う党いうことには注意を払う必要があります。
しかし、副作用を理由に接種を行わないと、より重篤な症状が出る可能性が高くなるということを忘れないでください。

インフルエンザの予防接種について

マスク
最後に、毎年多くの人が接種しているインフルエンザワクチンについて考えます。
ワクチン不要論の中で、特に不要とする意見の多い、インフルエンザワクチンですが、なぜそう言われるのでしょうか?
不要論の一部を挙げてみると、
・効果がない(接種してもインフルエンザに罹った。)
・流行したインフルエンザの型と違った場合予防できない。
・副作用が怖い
インフルエンザワクチンに限らず、ワクチン副作用があるのは事実です。しかしその数はごく少数で、厚生労働省が発表したH.24年のデータでは、0.0006%でした。
また、ワクチンに効果がないと考えている人もいますが、もともとインフルエンザワクチンに発病を予防する効果はありません。
あくまでも重症化を防ぐためのものです。
毎年、次に流行するインフルエンザを予測するのが国立感染症研究所です。
今年流行すると予想されるインフルエンザ型を予測し、ワクチンをどの型で作るかを決定します。
この時、選定させた数種類のインフルエンザ型が流行しなければワクチンは効果のないものになってしまいます。
しかし、その予測正確性はとても高く、90%以上の精度があると言われています。
これらの理由からインフルエンザの予防接種は受けた方がいいと考えられます。

まとめ

ポイント
この記事では、抗体を用いたワクチンの仕組みを解説し、予防接種の必要性と、リスクについて考えてきました。
予防接種を受けるにしても受けないにしても、ワクチンの仕組みをきっちり理解してから判断を下すことが重要だと考えます。

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